keta_chopの日記

まどマギの感想を書くためだけに立ち上げたのでどうなるかわかりません。

常守朱の信者による告解 #YOME_LOVE

みなさんこんばんはー。お元気でしたか?私は去年「杏子とほむらの関係も書きたい」とか言っておきながら1年経過しました!絶賛放置中!申し訳ない……申し訳ない……。
えー、本当なら今回の#YOME_LOVE Advent Calendar「杏子以外書ける子いないしな……」というわけで他の方にお譲りするつもりだったのですが、この1ヶ月弱の短いあいだに思いっきり直下で落下して拗らせました。その子について語らせていただきます。
彼女の名前は、常守朱(つねもりあかね)。TVアニメ『PSYCHO-PASS』『PSYCHO-PASS 2』のヒロインです。誰ですかまた虚淵脚本の女子キャラなのかって言った人。私だってこんなはずじゃなかった。でもまだたった二人目だ、大丈夫。大丈夫。

作品とキャラ紹介

この世界観がまた細かいのですが、ざっくり言うと
「脳みそ繫いだ生体コンピューターが、人間をスキャンして心理状態や職業適性とか犯罪者になる可能性とか測定してる。それに従って社会が動くので現代の私たちからするとちょっと息苦しい100年後の世界」で、
「犯罪者予備軍で人権がほぼない執行官と呼ばれるひとと、彼らを指揮する監視官が、警察として、あまり事件は多くないものの少数精鋭で取り締まっている」
と思っていただければ結構です。
一応、必要そうな単語や世界観の説明も載せておきます。

  • シビュラシステム:包括的生涯福祉支援システム。人間の生体反応を測定し、PSYCHO-PASSサイコパス)と呼ばれる精神状態の分析データを算出している。そのなかには犯罪係数(犯罪を犯す可能性や更生に至るまでのコスト等を踏まえた数値)や色相(現在の心理状況)といったものがある。また、職業適性判定も行い適材適所、省コストで国家を運営するために必要不可欠とされている。主に免罪体質者と呼ばれる人間たち(本編でも触れられていないが、おそらく非免罪体質者も含まれると考えられる)約250名の脳を繫いでできているが、表向きはスパコンの並列分散処理とされている。
  • 日本:トテモスゴイムギ*1メタンハイドレートのおかげで完全鎖国中。人口は現在の1/10くらいで首都圏など都市部に集中。シビュラが導いてくれるのでそれに従ってみんな生きており、色相を濁らせないようストレスケアが大事。色相チェックのために街頭スキャナが設置されているが、手入れされていないスラム街もある。
  • 潜在犯:シビュラにより計測された犯罪係数が一定値を越えた場合、社会から隔離され治療・排除される。その時点で犯罪を犯していなければ基本施設行きだが、事件の最中にドミネーターで計測されてしまうと、被害者であってもその数値に見合った対応がとられる(殺害含む)。
  • 公安:犯罪を犯す前にスキャナで把握できるようになったため、あまり事件はなく人員は機械化。人間の捜査官もいるが、犯罪に関わることで犯罪係数が悪化していくことが多々あるため、潜在犯の中から適性が出て、かつ本人が承諾した者を「執行官」として前線に立たせ、一般の捜査官は「監視官」として彼らの指揮に当たる。「携帯型心理診断・鎮圧執行システム・ドミネーター」と呼ばれる大型の電子銃を使用。リアルタイムで計測した犯罪係数に応じて麻痺・殺害(対象が人間以外だと分解も有)とモードが変更する。

メインキャラクターは以下の3人です。
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  • 常守朱:20歳の新人監視官。成績優秀、色相美人と非の打ち所がない秀才。おばあちゃんっ子でなぜか自然と諍い事を収めるのがうまい。同期の中で唯一公安局への職業適性が出たため、自分にしかできないことがあると入局。


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  • 狡噛慎也:元監視官の現執行官。28歳。入局当時は朱と同じく将来を嘱望されていた。当時担当だった佐々山執行官が捜査中に殺害されるも、被疑者失踪。状況証拠だけが残され捜査打ち切りとなった事件を未だに追い続けており、この事件により犯罪係数が悪化、執行官に降格。読書家かつ体を鍛えている。そんじょそこらのスパークリングロボ相手では歯が立たない。


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  • 槙島聖護:画像左側の真っ白い人。年齢不詳。免罪体質者であることを武器に、さまざまな犯罪者に援助を行う。人間の選択・意志を至上のものとしているため、それを放棄させるシビュラシステムや体制に違和感を持たない市民を疎んじている。狡噛と同様に読書家で、格闘技のセンスがずば抜けている。

「気がついたら崇めてた」

冒頭「こんなはずじゃなかった」と言ったように、1期放送当時の2012年ではまったくハマる気配はありませんでした。というか、元々ノイタミナなにそれおいしいの地域である北海道に住んでいたため、確かニコ生の一挙放送で見たはずです。「あー、なるほどこういう話なのかー」程度の認識でした。そして今放送中の2期も、さらっと見ていただけのはずでした。ですが、第2話で狡噛さんと同じ煙草をお香のように使っているシーンを見て


ほろりと来てしまったんですね。まずその時点で「えっそれもどうなの?」と思われるかもしれませんが、それでもまだ軽症でした。そこから、忘れてしまった1期の細かい設定を把握したいと思い、dアニメストアで総集編版を見返したところ坂道を転がり落ちてしまい、スピンオフ小説『PSYCHO-PASS ASYLUM1』を読んだら沼にいました。ふしぎ!
PSYCHO-PASS ASYLUM 1 (ハヤカワ文庫JA)

PSYCHO-PASS ASYLUM 1 (ハヤカワ文庫JA)

本編での朱ちゃん

本編で常守朱は、世の中を受け入れ、そのうえで自らの良心にシビュラの託宣を問いかけ続けることのできる意志の強さを持った女性でした。

朱ちゃんがシビュラの秘密を知る前、彼女はシビュラの中身と同じ免罪体質者である槙島により親友を目の前で殺されていました。また、共に戦い、信頼を築いていた執行官の縢(かがり)くんは、槙島の一派とともにシビュラの秘密に触れてしまったため、犯罪係数を度外視して内密に殺処分されています。

槙島をシビュラの一部とするため、裁けない彼を捕らえろ。
そんな理不尽きわまりない命令に感情では反発します。

しかし、それでも彼女はドミネーターを投げ捨てることができません。
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シビュラシステムが無ければ現在の社会が成立しない。シビュラの代案も出せはしない。そんな状態でシステムを瓦解させることが、どれだけの悲劇を生むのかわかっていた。だから、自らの理性で判断し、朱ちゃんはシビュラの指示に従います。
但し、その中でも、槙島を無事確保できたなら、逃亡犯扱いで処分される狡噛さんを執行官に戻すことを了承させるなど、できうる範囲で犠牲を最小限に留めようとします。

システムに唯々諾々と従うだけの人間を「家畜」と蔑み、「人間」としての意志を見たい槙島。その槙島をシビュラのもとでは裁けないとドミネーターの代わりにリボルバーを手にして槙島を裁く——殺そうとする狡噛。狡噛さんを「社会の中で生きる人間」として引き留めるため、ふたりの殺し合いに割って入ります。

「法が人を守るんじゃない、人が法を守るんです」

より善く生きたいと願う人々の想いが結実したものこそ法なのだと語る朱ちゃん。ですが、槙島の姿を探しているあいだに負傷してしまい、狡噛さんによって槙島は裁かれて事件はおしまいです。狡噛さんはそのまま行方をくらませ、朱ちゃんは引き続きシビュラのもとで法を守ることを選びました。


もうひとつ、朱ちゃんはこんな言葉で語られたことがあります。

「あの子は……なんていうかその、物事をよしとしている。世の中を許して、認めて、受け入れている。それでいて危ない橋を渡るのも厭わないんだから、ただ流れに身を任せているわけでもない。刑事っていう仕事の、意味と価値を疑うことなく、信じているんだな」

彼女は悪を、ひとが幸せになる可能性を奪う行為を、憎んでいます。ですが、憎しみの感情それだけで走ったときに失われるもののことも、同時に考えています。
だから、シビュラに頼る人間と社会の弱さを許して、認めて、受け入れて、それでも理想を求めることを諦めない。前に進む意志を灯し続けることこそ、シビュラの名の下に切り捨ててきた多くの幸福と命への唯一の贖罪になり、これからを救う唯一の手段だから。自己を律し、良心にその行為を問いかけ続ける。

そうやって彼女は、たったひとり、システムの内部にいながらシビュラに立ち向かえる人間となったのです。
私はそんな彼女の強さが、強く立つたましいの在り方に心を奪われました。

しかし、それは同時に常守朱が「人間」の枠を越えてしまうことをも意味していました。

「超人」としての常守朱

シビュラの望む理性的な判断ができる限り、彼女のサイコパスが悪化することはありません。たとえ目の前で親友が殺されても、大切な仲間が去って行っても、祖母が自分の担当する事件に巻き込まれて殺害されたかもしれなくても。ずっときれいなまま。心が張り裂けそうになっていても、「彼女は平気である」と数値として可視化されています。
人間の精神状態を示すものとして可視化されている以上、実際には違ったとしても心とイコールで結ばれ、「悲しんでいるように見える/言っているけれども、本当は平気なんだ」という扱いになってしまうのです。事実、物語を見ている視聴者の声として「これだけやられても平気とかなんなんだ」といった意見も見られます。
でも、数値化されたものが、すべてなんでしょうか。
あの苦しんでいる、悲しんでいる朱ちゃんの表に出ているものはニセモノなのか?
内に秘められたものだけがホンモノなのか?
そんなわけないでしょう!!?

可視化された「心」のようなもの

本来、このサイコパスを始めとする各数値は、社会秩序の維持においてのみ使われるべきものであって、ごく個人的な感情の場に持ち込むべきものではないはずなんです。もちろん、数値を悪化させないよう自らが管理するのはまだわかります。「自ら」その数値を「使う」と決めたのですから、それはそれでいいのです。でも、他人が、そのひとの数値で「判断する」ということは、とても、とても、冒涜的な行為ではないでしょうか?
これはもう個人的な感情でしかないかもしれず、うまく説明できる気がしないのですが、科学というものは所詮現在の人間が共通で理解できるように体系化しただけのものであり、「わからないものはわからない」のです。それを、さも全知全能であるかのように科学の判断によって他者の内面を断言する。管理するためではなく、単なるコミュニケーションのときに。それは目の前にいる他者という存在への最大級の侮辱でしかない。私にはそう思えてなりません。

ですが、シビュラによる判断を受け入れているあの社会では、それが普通になってしまっています。朱ちゃん本人でさえ、狡噛さんがいなくなって心配してくれた志恩に対して色相を持ち出して答えるのです。
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「大丈夫ですよ。心配なら色相判定してみます?朝自分でチェックしてびっくりしちゃいました。こんなことになったのに、ペイルターコイズ。……あたし、どれだけ薄情なんだろう」

心とサイコパスは別の物だと志恩が伝えても、「じゃあサイコパスって何なんですか?心って、何なんですか……」と。自分自身のことなのに、自分の気持ちさえ疑ってしまう。こんなに震えた声で告げているのに!
数値化されるということは、その変動も含めて「ふつう」が可視化されるということになります。そこから逸脱した朱ちゃんの変化は、どう捉えられるのでしょう?
「私だけ」のやわらかで大切な部分に、他人の、社会の、「ふつう」という視線がズカズカと入り込んで斬りつけていくんです。でも、朱ちゃんはそのことに気付いていません。彼女もまた、シビュラのもとで生まれ育った人間だから、傷ついている/傷つけられた/傷をつけたことに、気付けない。この時点でわたしはシビュラを爆破してやりたくなります。まじ、あいつ、にくい。

「ふつう」の中の異質

そう、数値による判断で、常守朱は「超人」と化してしまうのです。正常に測定できないが故に社会から疎外された免罪体質者、通常の数値を逸脱したために疎外された潜在犯。そのどちらとも違う、「ふつう」の枠の中で「ふつう」じゃない変化をする「超人」*2。彼女にはそのレッテルが貼られます。

「超人」であるからこそ、シビュラに立ち向かえる。確かにその通りです。ですが、彼女は現在のところ、孤独です。シビュラの事実を知り、システムの自己保存によって起こる悲劇を最小限に食い止めようと、シビュラと自分と人間の正義を現場レベルですりあわせているのです。たった!ひとりで!!
そりゃあ当然、一係のメンバーは殆ど朱ちゃんに協力的ですから、朱ちゃんの意図に合わせて大体動いてくれますよ?でもね!?シビュラの正体と、そこから生まれるすべての罪科を知っているのは常守朱ただひとりなんですよ!!!!!!!

しかも、です。ノベライズには「ゆきの葬儀以来、同期の友達にも顔をあわせにくくて」とあります。

つまり、朱ちゃんのプライベートな繋がりが削られているんです。
2期ではおばあちゃんが狙われました。朱ちゃん自身の部屋に犯罪者からのメッセージが残されて自室で落ち着くこともできません。あまつさえもう一度相手がやってこないかと罠にさえしている。彼女が「私人」になれる場所は、いったいどこにあるのでしょう?

英雄信仰

人を超えた彼女は、ひとりで安全装置を担っている。彼女自身が、サブシステム。いえ、シビュラという怪物に立ち向かう英雄と言ったほうがいいのかもしれません。そうしてどんどん、「平気」な朱ちゃんに役割が当てられ、人々の願いが積み重なっていくのです。まだ二十数年しか生きていない女の子の肩に!!
そのことが、私にはものすごくかなしい。
同時に、その在り方を選んだ常守朱のたましいが、尊いと思えるのです。
そして、尊いと思ってしまう私自身が、彼女に英雄の役割を押しつけているのだと思うと、身動きが取れなくなります。

人間としての常守朱が見たい

私は、彼女の「心」を決めつけるシビュラ社会が心の底から大嫌いです。朱ちゃんは強い。そのとおりです。自己を律し、前を見続けられる、「超人」だと思います。それでも、たとえ彼女がどれだけ強かったとしても、孤独に歩むことだけはお願いだからやめてほしい。英雄である彼女を信奉した私がこんなことを言うのもおこがましいですが、常守朱は人間なんです。
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1期前半では、かわいらしい表情もたくさん朱ちゃんは見せてくれました。どや顔めちゃかわです。so cuteです。年相応の表情じゃないですか。でも、進むにつれて笑顔は減り、笑ったかと思えば困ったような顔ばかり。2年後の2期でもそのままです。

私は、朱ちゃんにまた笑ってほしい。

2期では後輩の霜月ちゃんがシビュラの秘密を知ることとなりました。いまのところお互い秘密を共有していると気付いていないようですが、これからふたりで背負えるようになるかもしれません。もしくは年明け公開の劇場版で、海外にいるらしい狡噛さんと何らかのかたちで共有できるようになるかもしれません。

シビュラがどうなろうがもうどうでもいいです。朱ちゃんだけ、返してください。お願いします。

*1:ハイパーオーツ

*2:ニーチェには詳しくないので触れません